松川えりのてつがく日誌

はなして、きいて、かんがえるをお手伝いする〈てつがくやさん〉、松川えりのブログです。

『せかいでさいしょにズボンをはいた女の子』@スロウな本屋

もう1ヶ月前のことになってしまいますが、7月4日(日)は、スロウな本屋主催のオンラインえほん哲学カフェでした。

いつもは店長さんが選んでくださった何冊かの絵本からチョイスさせていただくのですが、今回は、お店でわたしがひとめぼれしたこちらの絵本を題材に。

 

 

昔々(といっても、うんと昔じゃなくて、ちょっと昔)、

女の子はズボンを履いちゃいけなかった。

そんななか、メアリーという女の子がズボンを履いて町へ出てみると、

とにかくもう、おおさわぎ。

 

‥‥‥というお話。

 

 

実は、ジェンダーに関する絵本はいろいろあるけれど、実際、対話の題材を選ぶとなるとけっこう難しいんです。(ということをどう説明しようか迷っていて、この記事をアップするのが遅くなりました。)

 

たとえば、有名なこちら。 

 

この一冊に救われた人ってたくさんいると思うのですが‥‥‥
「女の子はピンクが好き」というバイアスがこの世に一切なければ、この絵本って成り立たないんじゃないでしょうか。

同様に、ジェンダー関連の絵本って、ジェンダーバイアスがあってはじめて成立しているものが多いんです。

こうした絵本は、ジェンダーバイアスに晒されしんどいを思いをしている方を救う力がある。もしそういう偏見によってしんどい思いをしている方がいたら、ぜひこの絵本を紹介したい。

けれど、その一方で、全くそうしたバイアスを持ってない人や触れたこともない人を、そのバイアスに晒してしまうリスクも‥‥‥。*1

 

それに対して、今回の『せかいでさいしょにズボンをはいた女の子』は、その懸念を払拭してくれる要素が2つありまして。

 

まず1つは、この絵本が、メアリー・エドワーズ・ウォーカーという実在の人物の実際の体験をもとに描かれているということ。(絵本なので、実際よりだいぶマイルドに描かれている部分もあると思いますが)

作者の創作でもなく、実際の出来事だけど、すでに過去のこと。

現代の日本では、女性がズボンを履いたからって街が大騒ぎになることはありませんよね。

それなら、ジェンダーバイアスを描いたものであっても、ジェンダーバイアスを上書きしてしまうリスクはほとんどないはず。

 

もうひとつは、この絵本なら、ジェンダーに限定せず「当たり前」を疑い、「せかいでさいしょ」の一歩を踏み出すことがどうやって可能になるのか、一緒に考えることもできそうなこと。

ズボンにかぎらず、なんでも「せかいでさいしょ」って勇気がいると思うんです。
哲学対話では「当たり前を疑ってみよう」なんてよく言うけど、実際に行動に移すと、周囲に反対されたり、こわくて躊躇してしまったり‥‥‥。
そういうことが描かれた絵本なので、ジェンダー問題に関心がない人とも、一緒に読んで考えられそうだと思いました。

 

 

以下、ネタバレご容赦ください。

 

実際のえほん哲学カフェでは、職場での当たり前を仲間と共に変えていった体験談や、反対に違和感を感じながらも行動に移せなかったという参加者の経験も交えながら、絵本のなかの2つのポイントに話題が集中しました。

 

ひとつめは、表紙にもある主人公メアリーのこの顔。

絵本のなかにはメアリーの子の顔が何度か出てくるのですが、

人によって、あるいはページによって、見え方がちがう。

笑っているのか、得意げになってるのか、ちょっと無理してるのか‥‥‥。

それぞれに、どうしてそんなふうに見えるのか聞いてみると、いろんな表情に見えるから不思議。

それぞれの状況で思い描く気持ちが、人によって少しずつ異なるのかもしれません。

 

もうひとつ、今回の対話のなかで注目を集めたのが、女の子がズボンを履くことに反対する人たちのなかの、「ドレスはステキ」というプラカードを掲げた女性の絵。

「『ズボンはダメ』じゃなくて、なぜ『ドレスはステキ』なんだろう?」

「『ドレスはステキ』と思うのは自由だけど、なぜそれをここまでして主張するのかな?」

「この女性も無理しているのでは?」

「プラカードは大袈裟だけど、私も変わるのが怖いとき、こういうふうに思おうとしちゃうかも」

などなど。

なかには、主人公のメアリーより、こちらに自分自身を重ねる方も‥‥‥。

 

他に、メアリーのお父さんのセリフや、最後の他の子どもたちの反応なども話題についてもちょこちょこ話題にあがりました。

絵本のエピソードは過去の事柄だけど、参加者の体験も交えて、リアリティをもって「あたりまえ」に違和感を抱いたときどうするか、変わることや変えることの怖さと勇気などについて語り合うことができたかなと思います。

 

ご参加くださったみなさん、スロウな本屋さん、ありがとうございました。

 

*1:といいつつ、今後、対象や場所によっては、こうした絵本で哲学対話をする可能性もあると思うのですが