てつがくやさんの気まぐれ日誌

はなして、きいて、かんがえるをお手伝いする〈てつがくやさん〉、松川えりのブログです。

ソクラティク・ダイアローグで「つながっているのはどういう状態か?」〜合意形成を目指す哲学対話〜

あけましておめでとうございます。

 

昨年12月は鬼の忙しさで、ほとんどブログを書けずに終わってしまいました。

 

そんななかでも、日々精進は大事!

ということで、年末は仲間内でソクラティク・ダイアローグ*1を実施。

朝10時〜夕方6時までの2日間、フルに堪能しました。

 

最大の特徴は、参加者の具体的な1つの経験(仮想ではない)に基づいて答えを出すことと、参加者全員の合意形成が必要なこと。

  1. 問いを立てる
  2. 例(経験)を記述する
  3. 例(経験)を吟味する
  4. 答えを出す

という4つのステップが決まっていて、その各々の段階で参加者全員が合意しないと、先に進めません。

私が知る限り、唯一、合意形成を目指す哲学プラクティス(哲学対話)です。

(たまに「哲学対話では合意形成はしなくてよい」と誤解されている方がいらっしゃいますが、そういうわけではありません。本気で合意形成しようと思ったら、最低丸2日間はかかるため、体験したことのある方が少ないだけです。)

 

しかも、妥協は許されません。

そこは、あくまでソクラテス的=哲学的な対話ですから。

真理探究のために、参加者の1名でも「しっくりこないな」と思う人がいたら、立ち止まって考える。

 

今回は5名が参加し「つながっているのはどういう状態か?」について考えることになったのですが、この問いに決まるプロセスでも、この問いが決まったあとのプロセスでも、何度か(というか何度も)4対1で意見が分かれる場面がありました。

(もちろん、3対2、2対2対1で意見が分かれる場面もあり。)

 

ひとりでも「しっくりこない」という人がいたら、理由を聞いてみる。

すると、別の意見で一致していた人たちから「たしかに、それはある」「そういう視点もあったか!」という反応が出てくる。

その一人の意見も踏まえてあれこれ話し合った結果、第3の案が出てくることもあれば、新たに捉え直された元の案におさまることもある。

一見、合意形成から遠ざかるように見えるけれど、そうじゃない。

それを繰り返すことによって、より多角的に言葉や問いが吟味され、普遍度の高い真理に近づいていく。

 

こうしたプロセスをとおして、参加者は

  1. 自分で考える
  2. ともに考える
  3. 具体的に考える
  4. 真実に向けて考える

という4つの姿勢を体験的に学ぶことができます。

 

今回はまた、参加者全員がこの「真理に向けて考える」ということに全集中してくれたおかげ、意見の異なる人を無理に説得しようとすることも、自分や他者の「しっくりこない」という感覚を蔑ろにしたりすることもなく対話に臨んでくださったおかげで、格別の時間を過ごすことができました。

 

今回はじめて体験してくださった方の、こんな感想が印象に残りました。

「妥協しないって、意固地に自分の殻に閉じこもるようなイメージがあったけど、全然ちがう。自分の“しっくりこない”も相手の“しっくりこない”も大事にできると、むしろ開かれて柔軟になっていくんだ!」

 

4対1で意見が分かれる場面が何度もあるなかで、毎回同じ人が1になるのではなく、場面場面で1になる人がちがうのも興味深かったです。

ひとりひとりが“妥協しない”を守ってくれた証拠でしょう。

 

時間はかかるけれど、やっぱり“対話とはなにか”を体感するのに最もふさわしいワークだなぁ、と再認識。

オンラインとオフラインを行き来するなかで、若干、進行の仕方などに迷いが生じていたところだったので、忙しいなか臨んだ甲斐がありました。

大事な感覚を取り戻せた気がします。

 

 

ソクラティク・ダイアローグについて詳しく知りたい方はこちらをどうぞ。

 

 

 

*1:ネルゾンが考案した「ソクラテス方法」や他の哲学的(ソクラテス的)対話と区別して「ネオ・ソクラティク・ダイアローグ(NSD)」と呼ばれることもあります。