ご報告がだいぶ遅くなってしまいました。
10月8日(日)は、尾道のantenna Coffee Houseさんで、2ヶ月に一度の哲学カフェ。
今回は、テーマの代わりに、「救命ボート:余剰の富を独り占めしてよいのだろうか?」と題された、こんな思考実験をご用意しました。
「よし」救命ボートのキャプテンにみずから名乗りでたロジャーが言った。「このボートに乗っているのは12人だ。収容人員は20人だから余裕だな。食料はたっぷりあるから、助けが来てくれるまでの24時間くらいは、十分にもつ。だから、ひとりひとりにチョコレートビスケット1枚とラム酒1杯をおまけで配る余裕もある。何か反対意見は?」
「ビスケットはもちろん嬉しいのだが」メイト氏が言った。「われわれが今いちばんにすべきは、ボートを漕いでいって、溺れているあの気の毒な女性を助け上げることではないかな。もう30分も前からこちらに向かって叫んでいるよ」。何人かが困ったように、ボートの内側に視線をそらし、ほかの人たちは信じがたいというように首を左右に振った。
「おれたちの意見は一致していたはずだが」ロジャーが言った。「あの女が溺れているのはおれたちの責任じゃない。それに、助けたら、おまけのビスケットにありつけなくなる。せっかく居心地のいいこの空間を、どうして壊す必要がある?」まわりから賛同の声が上がった。
「助けることができるからだ。助けなければ死んでしまう。理由としては十分だろう?」
「人生なんて残酷なもんさ」ロジャーが答えた。「もしあの女が死んだとしても、おれたちが殺したわけじゃない。さあ、ビスケットを欲しい人は?」
(『100の思考実験:あなたはどこまで考えられるか』pp.74-75)
有名な救命ボートの思考実験とは、だいぶちがいますね。
このやりとりを第三者として観察・分析する人もいれば‥‥‥
「ロジャーもメイトも、自分の居心地をよくしようとしている点では同じでは?」
「ロジャーは『反対意見は?』ときいてるのに、全然人の意見を聞く気がない!」
「この人たちは、どうやってこの救命ボートに乗り込んだんだろう?一度溺れてて助けられたのなら、きっと女性も助けようとなるはず」
もし自分がこのボートに乗っていたらと想像する人もいるし‥‥‥
「もし自分がメイトの立場で、ロジャーに『じゃあ、女を助けるからお前がボートから降りろ』と言われたらどうしよう」
「溺れているのが本当にその女の人だけならいいけれど、他にもたくさん溺れていたら助けてもキリがない」
「私だったら、心のなかではメイトに賛同しつつも、声をあげられず黙ってるかもしれない」
現実問題に引きつけて考える人も‥‥‥
「これって、なんだか難民問題を彷彿とさせる話じゃない?」
「これって多数決で決めていいのかな?」
はじめのうちはフィクションだと思って読んでいた人からも、議論が進むうちに問題のリアリティを感じはじめ「他人事じゃない」「ロジャーのことを責められないかも」という声が出ます。
私も、ほんの何十円で助かる命があるらしいことを知りながら、喫茶店でミルクティーを飲んで哲学カフェなんてしている自分ってなんなんだろうと、ずっと、うっすら感じていたモヤモヤに向き合うきっかけとなりました。
そんな話してる暇あったら寄付しろよっていう声もあるでしょうが、必ずしもそうシンプルに行動できないのが、この思考実験の肝な気がします。
おりしもこの日は衆院選公示直前。
狙って企画したわけじゃないけれど、共同体におけるリーダーの決め方や適切な話し合いとは何かについて話し合えたのは、非常にタイムリーでしたね。
思考実験って、非現実的な議論になりがちという印象がありましたが、選びようによってはむしろ現実の問題について考えるきっかけになるんですね。
また時々企画したいと思います。
ご参加くださったみなさん、マスター、ありがとうございました。
↓こちらの本から抜粋しました。本には著者の解説もあります。
- 作者: ジュリアンバジーニ,河井美咲,向井和美
- 出版社/メーカー: 紀伊國屋書店
- 発売日: 2012/03/01
- メディア: 単行本
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