てつがくやさんの気まぐれ日誌

はなして、きいて、かんがえるをお手伝いする〈てつがくやさん〉、松川えりのブログです。

てつぷらマガジン、はじめました

そういえば、こちらでまだこの話をしていなかった。

 

てつぷらマガジン、はじめました。

 

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「てつぷら」というのは、「哲学プラクティス」の略。

「哲学プラクティス」より「てつぷら」のほうがかわいいでしょ?

「てつぷらマガジン」は、哲学カフェや子どもの哲学など、コミュニケーションを介した哲学実践に関する情報や知をお届けするメディアです。

 

「哲学プラクティスを実践している“人”に注目したい」ということでメンバーの意見が一致したので、ひとまず、「哲学プラクティスに関する9の質問」というアンケートを実施。

ご協力くださった方の回答を一人分ずつご紹介していっています。

 

こちらから、いろんな方の回答が読めます。

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たとえば、松川の回答はこんな感じ。

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そもそもの発端は、わたしの「哲学カフェの実践者の声から、日本における哲学カフェの歩みと実態、意義を明らかにしたい!」というものだったのですが、

こちらの記事でも書いたとおり‥‥‥

 

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一緒に活動できそうな仲間が見つかって、

仲間たちの「哲学カフェだけじゃなく、いろんな哲学プラクティショナーに話を聞きたい!」という声に背中を押されました。

最初の私の構想より広がりある活動になりそう。

 

今後は、インタビュー記事なんかもアップしていく予定です。

お楽しみに!

 

「“美”は事実か趣味か?」@ヨノナカ実習室

9月23日(木・祝)は、ヨノナカ実習室主催の対話する哲学教室。

 

こちらのテキストから‥‥‥

 

第2章の「“美”は事実か?趣味か?」を取り上げました。

 

最初に、よんでほしい名前とテーマについて一言ずつうかがってから、テキストから、「やぶれかぶれ」のサッカーのシュートについて美しいかどうか議論する二人の対話を読んだあと、感想を語り合います。

サッカーだけじゃなく、フィギュアスケートや野球、芸術作品、風景、心‥‥‥オペレーターの仕事のなかで感じた「美しい仕事」の話をしてくださった方も!

  • 心が動かされることと美しいの関係は?(wonderfulとbeautiful)
  • 型の美しさと、物語的な美しさ
  • 成熟しないとわからない美しさもある?
  • 美しさがわかるってどういうこと?

 

‥‥‥などについてある程度考えたたところで、一回、休憩。

 

後半はテキストから、「人間は生まれながらに美を知っている」というソクラテスと、「経験をとおして美を知る」というヒュームの思想をご紹介。

ソクラテス派の人とヒューム派の人、それぞれからその理由を聞いたり、「ここはソクラテスだけど、ここはヒュームかなぁ」なんてやりとりしつつ、前半の内容と行きつ戻りつしながら、さらにテーマについて深めたところ、さらに‥‥‥

  • “美”と“美しい”とで印象がちがう?
  • 美と正しさは関係がない?
  • 経験によって美に近づくことはできる?

といったポイントが浮上してきました。

 

ソクラテス派の人の意見もかなり説得力があったのだけど、個人的には、ソクラテス派の人がはっきりソクラテス派なのに対して、ヒューム派の人が「美についてはヒューム派だけど、正しさについてはソクラテス派」と言ってたのも、興味深かったです。

なんだか、美(あるいは美しさ)というものの特性を理解する、大きなヒントがありそうなんだよなぁ。

年代順に思想を紹介する哲学史の本で学んでも、こういう発想は出てきにくそう。

このテキストと対話だからこそ出てきそうな発想だな、という意味でもうれしかったです。

 

終盤は、ゴッホの絵の例(ゴッホの絵がなぜ生前評価されなかったのか、なぜある時代から評価されるようになったのか、ゴッホの絵の美しさはどこにあるのか)を通して様々な視点から美と経験の関係が吟味されると同時に、「経験ってなんやねん!?」といった問いが投げかけられる展開となりました。

 

何度か明石高専の授業でも扱ったことのあるテーマとテキストでしたが、こうして3時間みっちり対話するのもいいなぁ。

あっという間の3時間でした。

 

 

「美」「真」「正義」「神」の節から順に1章ずつ取り上げているので、次回は別の章になると思うけど、同じテキストに芸術に関する章(「“アート”の目的とはなにか?」)もあるので、いつかそちらを取り上げるのも楽しみです。

 

ご参加くださったみなさん、ヨノナカ実習室さん、ありがとうございました。

 

 

※「ヨノナカ実習室ってなに?」という方は、こちらのブログをどうぞ。

yononaka-jsh.hatenablog.com

 

追記(2021.10.6)

その後、ヨノナカ実習室さんのブログにも、報告記事があがったのでリンクはっておきます。(参加され方の感想のリンクもあるよ♪)

yononaka-jsh.hatenablog.com

『せかいでさいしょにズボンをはいた女の子』@スロウな本屋

もう1ヶ月前のことになってしまいますが、7月4日(日)は、スロウな本屋主催のオンラインえほん哲学カフェでした。

いつもは店長さんが選んでくださった何冊かの絵本からチョイスさせていただくのですが、今回は、お店でわたしがひとめぼれしたこちらの絵本を題材に。

 

 

昔々(といっても、うんと昔じゃなくて、ちょっと昔)、

女の子はズボンを履いちゃいけなかった。

そんななか、メアリーという女の子がズボンを履いて町へ出てみると、

とにかくもう、おおさわぎ。

 

‥‥‥というお話。

 

 

実は、ジェンダーに関する絵本はいろいろあるけれど、実際、対話の題材を選ぶとなるとけっこう難しいんです。(ということをどう説明しようか迷っていて、この記事をアップするのが遅くなりました。)

 

たとえば、有名なこちら。 

 

この一冊に救われた人ってたくさんいると思うのですが‥‥‥
「女の子はピンクが好き」というバイアスがこの世に一切なければ、この絵本って成り立たないんじゃないでしょうか。

同様に、ジェンダー関連の絵本って、ジェンダーバイアスがあってはじめて成立しているものが多いんです。

こうした絵本は、ジェンダーバイアスに晒されしんどいを思いをしている方を救う力がある。もしそういう偏見によってしんどい思いをしている方がいたら、ぜひこの絵本を紹介したい。

けれど、その一方で、全くそうしたバイアスを持ってない人や触れたこともない人を、そのバイアスに晒してしまうリスクも‥‥‥。*1

 

それに対して、今回の『せかいでさいしょにズボンをはいた女の子』は、その懸念を払拭してくれる要素が2つありまして。

 

まず1つは、この絵本が、メアリー・エドワーズ・ウォーカーという実在の人物の実際の体験をもとに描かれているということ。(絵本なので、実際よりだいぶマイルドに描かれている部分もあると思いますが)

作者の創作でもなく、実際の出来事だけど、すでに過去のこと。

現代の日本では、女性がズボンを履いたからって街が大騒ぎになることはありませんよね。

それなら、ジェンダーバイアスを描いたものであっても、ジェンダーバイアスを上書きしてしまうリスクはほとんどないはず。

 

もうひとつは、この絵本なら、ジェンダーに限定せず「当たり前」を疑い、「せかいでさいしょ」の一歩を踏み出すことがどうやって可能になるのか、一緒に考えることもできそうなこと。

ズボンにかぎらず、なんでも「せかいでさいしょ」って勇気がいると思うんです。
哲学対話では「当たり前を疑ってみよう」なんてよく言うけど、実際に行動に移すと、周囲に反対されたり、こわくて躊躇してしまったり‥‥‥。
そういうことが描かれた絵本なので、ジェンダー問題に関心がない人とも、一緒に読んで考えられそうだと思いました。

 

 

以下、ネタバレご容赦ください。

*1:といいつつ、今後、対象や場所によっては、こうした絵本で哲学対話をする可能性もあると思うのですが

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