てつがくやさんの気まぐれ日誌

はなして、きいて、かんがえるをお手伝いする〈てつがくやさん〉、松川えりのブログです。

てつがくやさんの悩み

哲学カフェを企画・進行したり、

毎日小学生新聞で小学生からの問いに答えたり、

たまに高専や大学で講義してみたり、

そういうの、私は全部「てつがくやさん」の仕事だとおもっています。

 

「てつがくやさん」は、みんなに〈てつがく〉する機会を提供するのがお仕事です。

 

哲学カフェで様々な人とテーマについて話して、きいて、考える。

毎日小学生新聞の連載「てつがくカフェ」を読んで、考える。

高専の「哲学概論」の授業で、大学の「医療倫理」の授業で、哲学や倫理の問題について考える。

 

いまは〈てつがくやさん〉の可能性を探求する時期だと考えているので、

あまりテーマとか対象とかにこだわりはありません。

それが、〈てつがく〉であるならば、そして、そこにニーズがあるなら、自分にできる範囲でいろいろやってみたい。

 

がんカフェとか、コミュニケーション・カフェとか、

たまに「それのどこが、てつがく?」と自分でも迷ってしまうものもあります。

けど、がんという病いを通して起こるモヤモヤについて話し合い、モヤモヤの正体を明らかにしようとするのも、やっぱり〈てつがく〉になると思うし、

コミュニケーションの悩みからコミュニケーションについて〈てつがく〉することもできる。

そういうふうに、〈てつがくやさん〉ならではのやり方を求め、価値を見出し、一緒にこれまでなかった〈てつがく〉のあり方を開拓してくれる人がいるから、そういう人となら喜んでやります。

 

逆に言えば、それが〈てつがく〉以外のニーズならば、応える気はありません。

同じ「がんカフェ」「コミュニケーション・カフェ」という言葉で呼ばれるものであっても、心理学ベースカウンセリングとか、傾聴とか、「コミュニケーションについて考えるとか面倒だから、手っ取り早くノウハウを教えてよ」と求められても、無理。

だって、〈てつがくやさん〉だもの。

 

お米屋さんで「パンも置いてよ!」、お肉屋さんで「なんで魚を売ってくれないの!?」と言われても、そうそうニーズに応えるのは難しいのと同じなのです。

 

だけど困ったことに、〈てつがくやさん〉は、お米屋さんやお肉屋さんほど、わかりやすくはない。

「うちでは〈てつがく〉しか扱っていません」と言っても、どこまでが〈てつがく〉で、どこまでが〈てつがく〉じゃないのか。

これまでほとんど〈てつがく〉に触れたことのない人にわかりにくい。

さらに、哲学者によっても哲学の定義はちがったりするので、ある〈てつがくやさん〉にとっては〈てつがく〉であるものが、他の〈てつがくやさん〉にとっては〈てつがく〉ではない、なんてこともありえます。

 

そこんところを、どうやって伝えたらいいのかな〜?

 

変な話ですが、わたしがどんな〈てつがくやさん〉かというのを、

お肉屋さんに例えて説明するなら、たぶん、

「魚肉も肉だし、魚肉ソーセージも売っちゃおう!

ついでにお肉と食べたら美味しい貝も売っちゃう?」

ぐらいの、ゆる〜いお肉屋さんじゃないかと思うのです。

しかし、それでも、

「こっちの牛肉と豚肉コーナーを全部、魚コーナーにしてよ」

と言われてそのとおりにするかというと、そうはしない。

だって、それやっちゃうと、お肉屋さんじゃなくなっちゃうもん。

 

という感じなのですが、これをちゃんと説明するにはどうすればいいのか‥‥‥。

 

わたしのほうで〈てつがく〉とそうでないものの線引きをはっきりすればいいのかもしれないけれど、みなさんのニーズから新たな〈てつがく〉の可能性に気づかされたりもするので、あまり線引きを決めつけたくない気もして、悩ましい。

 

やっぱり、理解者でもある現場の人たちと、ひとつひとつ考えていくしかないんだろうなぁ。

てつがくチャレンジ@岡輝公民館

先週6月23日(土)の午前中は、岡輝公民館へ。

以前、中央公民館のコミュニケーション講座でお世話になったYさんにお声がけいただき、小学生向けの体験講座「岡輝トライアルクラブ」の1コマを担当させていただきました。

 

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岡輝トライアルクラブ(KTC)のプログラム(参加した回にシールがもらえます)

「梅雨の時期に、室内でできることを」というYさんの見立てがピタリとはまり、雨が降ったり止んだりの一日。

小学1年生から5年か6年の子まで、13名が参加してくれました。

 

「家で新聞をとっていない子もいるだろうから、新聞に触れる機会を」ということで、毎日小学生新聞の連載「てつがくカフェ」より「なぜ忘れるの?」を取り上げました。

 

最初に「つい忘れちゃうこと」を聞いてみたのですが、「何も忘れたことなんてない!」という声が低学年から多数あがって、焦る焦る。

そうか、1年生だとテストも100点ばかりだし、赤ちゃんの頃の記憶もあるのか‥‥‥。

そのあと、みんなの「よんでほしい名前」を呼んでボールをパスするタイムトライアルで、なんとか「名前、忘れちゃった」の増員に成功。

それでも「忘れない」と言い張る子には、お父さんやお母さんやおばあちゃんが忘れちゃうことをヒントに「なぜ忘れるの?」について考えてもらいました。

(フランスの哲学者、オスカル・ブルニフィエだったら、もっとつっこんでそうなとこですが)

 

「お父さんは、あわてんぼうだからお弁当を忘れちゃう」

「おばあちゃんは認知症だから、脳が固くなっちゃって、忘れちゃう」

「大事じゃないことは忘れちゃう」

「そもそも、覚える気がないことは覚えない」

 

 さらに、「忘れるってどういうこと?」「反対に、覚えるってどういうこと?」について考えます。

「自分のなかで大きなことは忘れない」という意見が出たところで、ちょうどいい時間になったので、最後にひとりずつ「これは自分にとって大きいことだから、絶対忘れない」と思うことを挙げてもらって終了。

 

途中で、「今日は何つくるの?」って尋ねられて「何も作らないよ。今日はいっぱいおしゃべりしよう」と答えたら、「えー、つまんなーい」という声があがったりもしましたが、蓋を開けてみれば、その「つまんなーい」と言ってた子が一番積極的に参加していたような‥‥‥。

うまく話せない子もいたけれど、いい感じに間合いをとってボールをパスしてくれたので、それがちょうどよいブレーキになって、焦らずゆっくり対話が進んだ気がします。

 

公民館の方が「あの子たちが2時間も座っていられるなんて!」と驚いてくれたのがうれしい。

 

輪になって話して聞いて考える。
たったそれだけの、体を動かしたり何かをつくったりする他のプログラムに比べたら地味〜なプログラムですが、大人が驚いちゃうぐらいのことなんだと思います。

小学生が、2時間じっと、1つのテーマについて話し合うって。

本人たちは気づいていないだろうけど。

いつか、「あれ?なんかあのとき学級会よりたくさん話したぞ」「2時間もじっとしてられないと思ってたけど、できてたな」って気づいてくれるかな〜。

 

 

毎日小学生新聞の連載が本になったものはこちら。

子どもの哲学 考えることをはじめた君へ

子どもの哲学 考えることをはじめた君へ

 

 

この世界のしくみ 子どもの哲学2

この世界のしくみ 子どもの哲学2

 

 

 

一部ですが、こちらからもお読みいただけます。

mainichi.jp

「やりたいことってどうすればわかる?」@フリーデザイン岡山

先週、6月20日(水)は、奉還町商店街にある就労移行支援施設、フリーデザイン岡山での哲学カフェでした。

利用者の方、スタッフの方だけでなく、地域の方にも開かれ、いろんな方が参加されています。

昨日のテーマは、「やりたいことってどうすればわかる?」。

フリーデザイン岡山の方がいくつかの候補のなかから、「このテーマなら、どんな人でも話しやすいんじゃないか」と思って選んでくださったのとこと。

 

哲学カフェ「やりたいことってどうすればわかる?」

 

やってみて感じたのは、これは開催する曜日と時間、つまり参加者によってだいぶ趣が変わりそうなテーマだぞ、ということ。

この日は、今後どんなふうに働いていくか考え中の人(フリーデザインの利用者はもちろん、就活中の学生さんも)と、平日昼間の哲学カフェに参加できるような(おそらく型にはまらない)お仕事をしている人が多めの、フリーデザインらしい展開。

 

序盤は、「やりたいことを仕事にするのって、どう思う?」について盛り上がりました。
「やりたいことを仕事にすると、たっぷり時間を割ける」

「気分が乗らない日もやらなきゃいけないと、楽しくなくなってしまうのでは」

「相手のニーズに合わせるうちに、本当にやりたかったことからずれてしまう可能性も」

 

この問い自体はテーマの答えに直結するものではありません。
しかし、そんなふうにメリットとデメリットを挙げていくうちに、「やりたいことは、なぜわかりにくいのか」のヒントがいくつか浮かび上がってきました。

やりたいことでもやりたくない日もあるし、やりたいことは、他の人や状況に影響を受けたり、変化することも‥‥‥

すると、「これって、本当に自分がやりたいことなのかな?」という疑問がむくむくと‥‥‥。

 

この点について、「やりたいことを仕事に仕事にしている人はどうなの?」と質問が出ます。

「あれこれ試して、これと決めてから、やりたいことがずっと変わらないまま仕事にしてている」という人もいれば、「やりたいことを仕事にしているけれど、やりたいことがずっと変わってないわけじゃない。やりたいことは変化する。それでいいんじゃないかな」という声も。

(この日の哲学カフェは、やりたいことを仕事にしている人が思いのほか多く、驚きの声もあがりました。私も含め、平日昼間に哲学カフェに参加できる仕事の人だからでしょうか。)

 

さらに、後半には、「そもそも、やりたいことってどういうこと?」についても、興味深い意見が出てきます。

「『やりたいこと』と『やり甲斐がある』って同じこと?」

「仕事にするとなると他の人との関わりながらやっていかなきゃいけないから、『やりたい』というだけ無理。『やりたい』を『意義』とか『目的』に変換する必要があるのでは?」

「『やりたいこと』って内容だけなのかな?仕事にしたいと思ったことでも生活スタイルに合わないこともある。内容だけでなく、自分のライフスタイルに合っているかどうかも重要では?」

 

みなさんの仕事観や人生観も垣間みえて、味わい深い時間となりました。

 

来月は、内輪向けのコミュニケーション・カフェ。

次回のフリーデザインの哲学カフェは、8月22日(水)13:00〜14:30。

テーマが決まり次第、フリーデザインのfacebookページで告知されます。